鍼灸ってどんなもの?(概論)

鍼灸治療は、いまや世界中で行われている治療法です。
中国・朝鮮半島・日本など東アジアを代表する伝統医学ですが、現在ではその効果効能が評価されて欧米などでも広く研究され、使われています。

ただ、そういたことはあまり知られていないのが現実です。
実際に鍼灸施術を受けたことのある人でも、知っているようで意外と知らない鍼灸治療についてご紹介します。

鍼灸治療って誰がするの?

鍼灸師とは

鍼やお灸を用いて、体にあるツボ(経穴)に対して刺激を与える治療法のことをいいます。
日本で鍼灸施術が可能なのは、(医師を除けば)「鍼灸師」だけです。
ちなみに、よく鍼灸師と呼ばれますが、正確には国家資格である「はり師」「きゅう師」のふたつの資格を保有する者です。

鍼灸治療とは?

鍼灸とは

ツボ(経穴)に鍼とお灸で刺激を与えるのが鍼灸治療です。

一般的によく治療に使われる「鍼(はり)」は髪の毛程度の細さです。
通常であれば、刺したときの痛みはほとんどありません(ただし皮膚には痛みを感じるセンサー(痛点)があり、そこに当たるとごくまれに痛ッとなることもあります)。

お灸は「もぐさ」というヨモギの葉を乾燥させた材料をツボの上で燃焼させます。
気持ちよい温灸という方法や、少々熱感のある点灸など、方法もいくつかあります。

また、
鍼灸といえば「肩こり腰痛に効く」「おじいちゃん・おばあちゃんの治療」「東洋医学」というイメージかもしれません。
しかし最近では、アメリカ・ヨーロッパでは日本以上に医療現場での活用が進んでおります。
グローバルに普及している状況で、海外の鍼灸論文や研究が日本に逆輸入されるような状況ですらあります。
もちろん、日本でも鍼灸は不妊や美容などと相性が良いとの認知も進んでいますし、若い世代への活用も盛んになっています。

長い歴史をもつ鍼灸治療

鍼灸の歴史

鍼灸の歴史は大変古いです。
2000年以上前の中国の遺跡から、すでに鍼灸が体系だって行われていた文献も見つかっています。
当時の鍼灸施術がどのようなものだったかは正確には分かりませんが、鍼とお灸の施術という意味では約2000年以上の長い歴史がある伝統医学です。

日本では5~6世紀(1500年前)には伝えられたとされ、以降、江戸時代までは漢方薬とともに日本の正規医療として病気治療に役立ってきました。

その後、明治政府の方針で西洋医学が正規の医学となり、東洋医学(鍼灸や漢方など)は本流から退けられますが、その後も民間での支持は強く、東洋医学は生き残っていくことになります。
医療の本流から外れてしまった東洋医学ですが、現在、鍼灸を学び研究する4年制大学が9校あり、日々研究が進んでいます。

日本の鍼灸の特徴は、簡単に言えば「少ない優しい刺激で効果を出す」ことにあります。
たとえば中国と異なり非常に細い鍼を用いています。
太い鍼で刺激をしっかり与えるという中国流の鍼灸が間違っているわけでは決してなく、日本の風土で暮らす日本人の体の質には優しい刺激が合うとして、日本流の鍼灸が出来上がってきたものと考えられます。

東洋医学の考え方

東洋医学の気血水

西洋医学では体を細部に分解して病気の原因を探し、その原因を除去することで病気を治療するというアプローチをとります。
一方、東洋医学では体全体のバランスが乱れることで病気が起こると考え、そのバランスを整えることがばできれば病気は治っていく、というアプローチを考えています。

「気・血・水」という物質が体の中を満たしめぐっており、それぞれの量と質のバランスが保たれている状態が健康とみます。
気・血・水のバランスの乱れが、すなわち病気ということです。

逆に言うと、
気・血・水のバランスの乱れ方によって、それを整える治療法が定められています。
鍼灸ではツボを駆使して、バランス回復をはかるわけです。

以下に気・血・水を簡単に説明します。

気(き)

体内を流れるエネルギーのことです。
いくつかの働きがあります。
筋肉を動かすことや排せつ物を出すことなど、動かす作用は気の作用です。
体を温める作用も気の作用です。
また、(西洋医学で言う)免疫に当たるような防衛作用もあります。
あとは、内臓を定位置に維持したり、排せつ物が過剰に流れないように保持する作用もあります。

血(けつ)

現代で言う血液とだいたい同じで、血は循環して全身に栄養を与え・潤いを与える作用があります。
東洋医学で特徴的なのは、血は精神活動の基礎でもあり、血が不足すると不安感・不眠・情緒不安定などになります。

水(すい)

血液以外の体内にあるリンパ液やその他の水分のこと。
皮膚や毛、目などに潤いを与え、臓器をスムーズに働かせる潤滑油のような作用もあります。

経絡(けいらく)と経穴(けいけつ)

なお、気や血が通る道(ルート)のことを「経路」と呼びます。
全身に気血がめぐるのは経絡に沿っています。
また、経絡上の各所に「経穴(ツボ)」があります。
経絡の気血が滞らないよう整えるために、経穴に鍼や灸をし、気血の流れをスムーズにすることが鍼灸治療です。

鍼灸の効果

鍼灸の効果

鍼灸は肩こり・腰痛・ひざ痛のような関節や筋肉のような整形外科疾患だけに効くわけではありません。
その作用範囲はもっと幅広いです。
頭痛、風邪、胃腸の症状、耳鼻科的な症状、冷えのぼせなどの自律神経失調症状、うつや不眠などの精神疾患、生理痛などの婦人科系疾患、などに用いられて効果を出しています。

鍼灸の作用は?

鍼灸の作用

鍼灸ってどういう効果があるの?
この疑問への答え(鍼灸の作用メカニズム)は、現代科学では明らかになっているものとまだ未知のものがあります。
分かっていることで、主に以下のような作用が考えられるということを書いてみます。

鎮痛作用

痛みを緩和させる作用がかなり研究されている鍼灸の効き目のひとつです。
たとえば鍼やお灸の刺激は、中枢神経を介して脳に伝えられ、体内に存在するモルヒネに似た物質が体内より放出され、痛みを伝える神経の動きを緩和させ痛みを抑制しています。
それ以外にも鍼やお灸をしたその場所でも鎮痛作用が起きています。

自律神経の調整作用

これも鍼灸の大きな作用のひとつです。
自律神経は交感神経と副交感神経があり、互いにバランスを取りながら体を「良い塩梅」に保っています。
鍼灸刺激は、自律神経系の機能を調整します。

自律神経が乱れると、筋肉の緊張やコリ・頭痛・めまい・吐気・ダルさ・しびれや痛みなどの症状が現れることもあります。
疲れやすい、体がだるいなどの「何となくの不調」も自律神経の乱れによるものが多いでです。

鍼灸の自律神経の調整作用は、血圧を下げる薬のように一方向のみに働くわけではありません。
自律神経のバランスを整える作用ですので、高血圧の人には血圧を下げ、低血圧の人には血圧をあげるといった作用が起きます。
鍼灸には副作用が少ないと言われるのはこういう理由からです。

血行促進作用

自律神経の調整作用のうち、大きなものが「血流促進」です。
鍼灸には血流を促進させる作用があります。
筋肉のコリや痛みには血管を拡張させ、血行を促す働きが起きます。
一方、関節の炎症などでは患部に集まっている血液を健康な部分に移動させ炎症を鎮める作用が起きます。
これも自律神経系の働きの調整なので、鍼灸は両義的に働きます。

免疫力の活性化作用

体内に入ってきた異物と闘う働きのある白血球を増やすことで、生体防御機能が高まり、体全体の免疫機能を活性化させる作用があります。

世界的な広がりを見せる鍼灸

世界に広がる鍼灸
地域的な伝統医学として長く存在していた鍼灸治療ですが、ここ数十年の間に世界に普及しました。

1979年には、世界保健機関(WHO)は鍼灸治療の適応疾患43疾患を発表しました。
これは必ずしも研究の裏付けがあるものではありませんが、鍼灸の適応範囲の広さが分かります。

1983年には、日本で鍼灸教育に特化した初めての4年制大学が設立されました。
またこの年、鍼灸の世界的規模での学会連合が創設されました。

1997年には、米国国立衛生研究所(NIH)が鍼に関するパネル声明を発表しました。
アメリカの国立衛生研究所(NIH)が、手術後の吐き気、妊娠時のつわり、歯科手術後の痛み軽減などに鍼灸は効果があることを認める声明を発表しました。
これが契機となり、米国だけでなくヨーロッパにおいても鍼の臨床研究が盛んになります。
ドイツでも大規模な臨床研究が実施され、 鍼治療が保険適用されることが決まりました。

2008年には、経穴の位置の国際化がなされました。
今まで古典などで多少ずれがあった経穴の位置の標準化が行われました。
日本、中国、韓国の代表者による協議の末に、WHOの公式な経穴位置が定められました。

このように、鍼灸治療は世界標準のグローバル医療としての地位を確立しつつあります。

鍼灸の未来

鍼灸の未来

現在、鍼灸は、(西洋・東洋医学を併せた)統合医療の中で、有力な治療法のひとつとして認知が広まってきています。
この背景には、西洋医学(現代医学)では解決するのが難しい症状が増えてきている現実があります。
たとえばストレスからくる症状、さまざまなアレルギー症状、慢性疲労、生活習慣病など、現代社会特有の疾患が挙げられます。

先に挙げたような東洋医学の効果・作用は、まさにこういった原因がはっきりしない症状や慢性的な症状に適しており、鍼灸(東洋医学)を取り入れていく風潮が年々増えています。
日本の医療機関ではまだまだそのようなハッキリした流れにはなっていませんが、世界的に見ると年々鍼灸が活躍する場が広がっており、その流れはおそらく日本でも定着していくのではと考えています。
西洋医学も東洋医学も、患者さんのおツラさが少しでも早く改善するために、互いに補いながら活用出来たらよいと考えます。